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日々放置プレイ

読んだ本と見た舞台の感想

異世界落語 1 (ヒーロー文庫)朱雀 新吾

★★★★★ 読書 読書-ライトノベル

異世界落語 1 (ヒーロー文庫)

異世界召喚、ファンタジー。
異世界に召喚されてしまった落語家(噺家)が居酒屋で落語を披露しているうちに、世界平和へと結びつくお話。

舞台は好きだけれども落語は見たことがない、というわたしでも面白く読めた物語。

噺家は、自分の持ちネタであるこちら現代日本のネタをうまいこと異世界の物語に落とし込んで、異世界で落語として話しだす。運の良いことにあちらの世界でもこちらの世界と似たようなものがある。例えばうどんや蕎麦のちょうど中間地点のような食べ物もあるし、時間の概念も存在する。それを利用して、一番最初に披露される落語が「時そば」。

ある冬の深夜0時頃、小腹が空いた男Aが通りすがりの屋台の二八そば屋を呼び止める。Aは主人と気さくに「おうッ、何ができる? 花巻にしっぽく? しっぽくひとつこしらいてくんねえ。寒いなァ」とちくわ入りのかけそばを注文する。その後は、看板を褒めたり「いや、実に良い箸だよ。素晴らしい」と割り箸をほめる。更にそばを食べながら器、汁、麺、具のちくわなどを幇間(たいこもち)よろしく、ひたすらほめてほめてほめ上げる。
 
食べ終わったAは、16文の料金を支払う。ここで、「おい、親父。生憎と、細けえ銭っきゃ持ってねえんだ。落としちゃいけねえ、手え出してくれ」と言って、主人の掌に1文を一枚一枚数えながら、テンポ良く乗せていく。「一(ひい)、二(ふう)、三(みい)、四(よう)、五(いつ)、六(むう)、七(なな)、八(やあ)」と数えたところで、「今何時(なんどき)でい!」と時刻を尋ねる。主人が「へい、九(ここの)つでい」と応えると間髪入れずに「十(とう)、十一、十二、十三、十四、十五、十六、御馳走様」と続けて16文を数え上げ、すぐさま店を去る。つまり、代金の1文をごまかしたのである。
 
この一部始終を陰で見ていた男Bは、Aの言動を振り返り、Aが勘定をごまかした事に気付く。その手口にえらく感心し、真似したくなったBは、自分も同じことを翌日に試みる事にする。そばを食べる事が目的ではなく、1文をごまかすためだけにわざわざそばを食べる。
 
待ちきれずに早めに繰り出したBは、Aの真似をするがことごとくうまくいかない。箸は誰かが使ったもの、器は欠け、汁は辛過ぎ、そばは伸び切り、ちくわは紛い物の麩。とうとうそばをあきらめ、件の勘定に取り掛かる。「一、二、……八、今何時でい」主人が「へい、四つでい」と答える。「五、六……」。まずいそばを食わされた上に勘定を余計に取られるというオチ。
 
引用元: wikipedia-時そば

特にそこまで落語を知らないような人(たとえばわたし)でも知っているような有名な物語。それを即興でこの世界の物語のようにして、噺家は話し始める。
このつかみがうまいよねー! って思う。題材にされるのが知っている「時そば」なので、だいたいどんな風に物語が進んでいくのか、読者の側でも察することができる。このあと来るぞ、来るぞ、と思いながら読むのは楽しい。
しかし、場所は異世界だ。現代とは微妙に勝手が異なる。時そばに関わる場所で言えば、時間の数え方が違う。宗教的な理由により、1時、2時という数え方ではない。どうなる噺家、このままでは落語が通じない。異世界と現代日本の両方を知ってるキャラがそのあたりを解説し始めたあたりで、読みながらこれはどうなるどうなると気になってくる。最初に持ってこられるのが有名な話だからそんな風に楽しめるんだなと思えた。そして当然うまいこと落とすわけだけれど、その流れも面白かった。

これ以外にも、子ほめや元犬などいくつかの落語を題材として物語は続いていく。時そば以外は元の落語を知らないのだけれど、おかげで時そばのように「こちらの世界とあちらの世界の違いをどう使うのだろう」ではなく「この物語の落ちはどこに向かっているのだろう」という方面で楽しむことができた。
でも、これ実際の落語のネタを知っていたらもっと面白そうだ。地元でも寄席をやっているようだし、ネットで検索したらポットキャストの寄席配信もあるようだし、そんなものをいくつか聞いてみたい。前に両国の江戸東京博物館で寄席っぽいのやってたけれど、あの時は興味が無くて全然見てなかったんだよなー。

キャラクターはなんだかとても興味深い構成。エルフとドワーフが敵対しているだとかそういう異世界のことはどんどんと表現されていく。敵対しているが協力しなければ襲ってくる魔族に対して抵抗できない。勇者は気まぐれ。等など。しかし、異世界から召喚された張本人、噺家の楽楽亭一福のことは驚くほど表現されない。なんとなく優男風っぽいことと、人当たりが良いこと、終盤に年齢が32歳と出てきたことぐらいか。
本当に、異世界(に)落語(がもたらされ、その落語のおかげで異世界の人間たちが変わっていく)話だった。一福は物語においてあんまり重要じゃなくて、それ以外の人たちの変化のほうが物語の主軸だったんだなというかんじ。当然一福の落語が面白いということも十分大きな物語の魅力だけれども。

話として面白かったので、ぜひとも続きを読みたいと思った。題材ごとにわけられた連作短編集の形なので、少しずつ読んでいくのが面白かった。
微妙に気になったんだけど、作者さんのことよりも、監修の落語家さんのほうが全面に出てるだなこの本。カラーページで1ページもらってたり、あとがきは? と見てみたら監修の落語家さんの言葉だったり。なんとなく毛色が不思議な感じだった。
とはいえ、この落語家さん、ウルトラマンを題材にした落語もあるということで、特撮が好きなのでぜひともそれは見てみたいと思った。

柳家喬太郎 名演集1 寿限無/子ほめ/松竹梅

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