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日々放置プレイ

読んだ本と見た舞台の感想

闇に香る嘘 下村敦史

★★★★☆ 読書 読書-文芸書

闇に香る嘘

この記事はネタバレをしています。

2015年このミステリーがすごいにて3位だった小説。
中途失明の主人公が、中国残留孤児として日本に戻ってきた兄が実は本当の兄ではないかと思い調べていくミステリー。

主人公は、孫の臓器移植のために、自分の兄に臓器提供をしてくれないかと頼む。けれども兄は頑なにそれを拒む。もしかして、兄は兄ではないのではないか? そう思った主人公は調べていく。しかし、失明者の主人公には障害がつきまとう。兄の顔や残っているはずの傷痕などを見れば一発でわかるだろうに、主人公にはそれが見えない。初めての場所に行くときも目が見えれば安全な道も危険しかない。そんな状況でも、真実が知りたいという思いと孫のために、主人公は事実を探し続ける。
そんな中、主人公の兄を名乗る男から連絡が着始めたり、謎の点字の手紙が届いたりという奇妙な事柄が続く。

うわー、読んでいてとにかく怖かった。主人公は目が見えない。そのため、目の前に包丁を持った人間がいてもわからないし、相手がどんな表情をしているのかもわからない。人間は視覚にたよるいきものだというけれど、その視覚を途中で失ったらどれだけ恐ろしいことか。
目が見えたならば表情やちょっとした仕草でわかるだろうこともわからない。途中で現れた主人公を助けてくれるが声は出さない謎の男も、目さえ見えれば誰なのかわかるのに、主人公にはわからない。読んでいて次に何が起こるかわからない恐怖にこちらまでずっと怯えていた。

また、中国残留孤児という題材がわたしの読む範囲だとちょっと物珍しかった。
わたしは戦争を知らない子供たちというか昭和も知らない平成生まれだ。中国残留孤児というと遠い昔の話のような印象も合って古い時代設定の本なのかなとちょっと思ったりもしたけれど、作中舞台がそれほど前ではない、少なくとも2010年ぐらい? もうちょっと後? っぽくて驚いた。中国残留孤児ってまだ現代の問題なのか。アイデンティティの問題や自己が何かの問題など、結構きついなと。社会問題的なのはほんと範疇外なので全然わからないんので、読んでてただきついなと思うことしか出来なかったけれど。
ただ、それの利用法が双子の入れ替えトリックだぜ! というのは予想外だった。双子の入れ替えトリック(という使われたギャグ)ではなく、双子の入れ替えトリック(マジ)というのもまたなんとも。

結局は兄(疑った方)も母も、どこまでも優しい嘘をついていたという物語であり、家族(血も育ても)はやさしいという物語だった。兄が必死にそれ以上探るなと言ったのも、母が主人公が真実を知ろうとすると止めようとするのも、どれも主人公のためでしかなかった。あれだけ自分のことを疑った主人公を、兄はそれでも助けたし救おうとした。主人公が中国人をきつめに言うたびに兄がとりなすのも主人公のためだった。棄てた母という言葉だって、主人公に対してのものだった。きっつい。やさしい嘘過ぎてきっつい。
兄が言っていた「育ての親に孝行したい」の言葉の何割かは、弟に対して言っている部分もあったんだろう。主人公の育ての親は母なのだから。わかってしまった真実がどこまでも切ない話だった。
ただちょっと兄(実の)に関してはご都合では? と思う部分があった。ミステリーにご都合ではとか意味なさすぎるでしょーと言われるかもしれないが、離れて暮らしていたら双子とはいえそんなに顔は似ないのでは? ちょっとそこは無理すぎるのでは? でもなんだかんだで丸く収まり、悪い人はいない物語で良かった。

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