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日々放置プレイ

読んだ本と見た舞台の感想

ただ、それだけでよかったんです (電撃文庫)松村涼哉

★★★★☆ 読書 読書-ライトノベル

ただ、それだけでよかったんです (電撃文庫)

第22回電撃小説大賞<大賞>受賞作

ある中学校で一人の男子生徒Kが自殺した。『菅原拓は悪魔です』という遺書を残して―。自殺の背景には、菅原拓によるKたち四人への壮絶なイジメがあったという。だが、菅原拓スクールカースト最下位の地味な生徒で、Kは人気者の天才少年。また、イジメの目撃者が誰一人いないことなど、多くの謎が残された。なぜ、Kは自殺しなければならなかったのか。「革命は進む。どうか嘲笑して見てほしい。情けなくてちっぽけな僕の革命の物語を―」悪魔と呼ばれた少年・菅原拓が語り始めるとき、誰も予想できなかった、驚愕の真実が浮かび上がる。第22回電撃小説大賞受賞

学園、いじめ、人間心理ズタボロ系、どんでん返し、家族、スクールカースト
遺書を残して死んだ弟、いじめ事件の謎を解くために調べ始める姉と、いじめの首謀者と名指しされた少年の物語。

どう表現したら良いのか……、電撃っぽくない作品といえばそんな感じかもしれない。
他でも言われていそうだけれども、ガガガ文庫から出ていたら違和感なく受け止められた。あえていうなら江波光則の葬シリーズに雰囲気が近いか? あの系統。

私は家族物に対して評価は甘い自覚があるのだけれども、それとはまた違う……なんというか。すべてにおいて、どう表現したら良いのかわからない。
起きたいじめ事件に対して原因追求をする姉だけれども、「天才」「人気者」と言われる弟がいじめられるとは到底思えない。ならばいじめ事件とは何か? 実際のところ起きていたのは何だったのか? というような話なんだけれども、後半になればなるほど明かされていく真実に対して、言われてみればそんな伏線はしっかりはられていたとはわかるのだけれど、文章として表沙汰にされるまですっかりと思考から外れていたというか。
ある意味とてもミステリで、登場人物が様々な仮説や推理をしながら、それが覆され、あらたな仮説を組み立てて、またそれは正しいのか? それともまたこれも間違っているのか? と読み進めるような物語だった。

物語の大きな部分に、スクールカーストといじめがある。
作中では、学校でとあるシステムが採用されている。『人間力テスト』というそのシステムは、

 人間力テストは、二種類の質問事項によって構成される。
『この時代、○○に必要な能力はなんだとおもいますか? 以下の群から三つ選びなさい』
『同じ学年の中で、××を持つ人物を挙げて下さい』
 その二種類だ。
 ○○にはリーダー、上司、人気者、などといった言葉が入る。リーダーに必要なものは何か? 友達になりたいのは何を持つものか? 文化祭ではどんな能力を持つものがいれば役に立つか? 将来、仕事で活躍するのに必要な能力は何か? などとなる。
 そして、××には、優しさ、真面目さ、外見の良さ、などが書き込まれる。

というテストを経て、その人物の人間性を数値化しランキング付けするシステムとなる。ランキングは発表されるわけではないが、個々には教えられるため、自分が大多数の他者にとってはどういう立場の人間であるかというのを明示化される。
他人にとって自分はどんな人間か。友人ではなく、クラスや学年の大多数の人間にとってどういう立場の人間か。それが明示化されるというのは、あまり明確に見たくはない現実を強制的に見せられる世界だ。

この圧倒的悪趣味なシステムによって発生するスクールカースト、またそれを利用したいじめ事件のひっくり返し方が読んでいてとてつもなく面白かった。そうくるかというか、そう持ってきて考えることが出来るのかというか。
システム自体は物語のかなり冒頭に持ってこられていて、なおかつ重要なものと明示されてはいたものの、終盤のこの部分で関わってくるとは思わなかった。
個人的には、何よりも姉と弟の関係性が発覚したときが一番ぞっとした部分があった。母親のモンペっぷりは読んでいてなんとなく想像がついていたものの、姉の『欠落お姉ちゃん』の言葉も明らかになるとは思わなかった。

また、黒い地に白い字で表記される、他者からの視点部分がとても興味深く面白かった。LINE? かな? 私はLINEをやっていないので多分LINEかなーと思ったのだけれども、そこで交わされる会話がすごく生々しさがあった。

最終的に拓が気づいたそれが事実だとすれば、おそらく拓は逃され昌也は家族から逃げられないとして死んだということになる。だが本当にそうだろうか、などと考える。本当に昌也はそこまで考えて行ったのか?
結局その部分は昌也がすでに死んでる以上わからないけれども。

ネタバレとなるが、最終的に昌也の死は、スクールカーストの低下や、いじめの被害者であるとされることについてプライドが耐えられないからというもの。学生という箱に入れられている以上、スクールカーストからは逃れられない。そしていじめ被害者として低い立場に見られたり軽んじられたりすることは、きっと今まで強者の立場であった彼らには絶対に耐え切れないだろう。
また、人間力テストで少しでも上の順位となりたい、スクールカーストで上になりたい、故に始まったいじめなど、読んでいて学生の嫌な生々しさがあった。その辺りを含めてとても嫌な感じにのめりこんで読めた。

話的には本当にあまり電撃らしくないというか、ガガガっぽさがあった。なんだろうなー、でもこれを電撃で読めた、電撃がこれを受賞する、っていうのに意味があったのかもしれない。

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