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日々放置プレイ

読んだ本と見た舞台の感想

その日の吉良上野介 (角川文庫)

 

その日の吉良上野介 (角川文庫)

その日の吉良上野介 (角川文庫)

 

浅野の刃傷沙汰から二年足らず、収賄の噂により役職を解かれた吉良は、隠居にあたって別れの茶会を準備していた。茶器を手にした吉良の脳裡に、ふとその日の光景が蘇る。事件当日の朝、天下の名器・交趾の大亀を前にした浅野のひどく思いつめた表情が…。赤穂事件最大の謎とされる刃傷の真因を巧みな心理描写で解き明かす表題作ほか、人情の機微を濃やかに描き、鮮やかな余韻を残す五篇の忠臣蔵異聞。 

読みやすく、面白い忠臣蔵物語

この間まで吉良忠臣蔵を読んでいたせいか、随分と読みやすく感じました。
今まで池宮彰一郎ってなんかすごい人みたいなイメージがあってどうにも手を出しづらかったのですが、読んでみてよかった。

出てくる人たちが絞られてい短編故に焦点がしっかりしているので、ぱっと空き時間に読むのでとても読みやすかったです。

嫌な人のいない物語

個人的に、嫌だなと思う人、嫌いだなと思う人、こいつ悪人だろと思うような人が全くいない物語でした。

一つ目の話は浅野内匠頭とは仲が良くないものの赤穂浪士として戦うことに決めた男の話。
彼の真っ直ぐさと大石内蔵助の格好良さ、忠臣義士と思わせて……でにやりとさせられました。

二つ目の話は、他の本だとよく仲がいいだの急進派トリオだのなんだので扱われている堀部安兵衛高田郡兵衛が、あまり仲が良くないというか安兵衛がそこまで郡兵衛のことを快く思っていない話。
ラストシーンの安兵衛の行動がすごく好き。っていうかこの話の安兵衛格好良すぎ。

三つ目の話は表題作の吉良の話。吉良が茶会の前に茶器を選びながら、浅野の刃傷事件についてを思い出す話。
結局この物語において嫌な人・悪人はいないのだなと思わされる話。被害者であるはずの吉良ですら浅野を悪くないって言ってくれていて、なんだか優しい話だと思いました。浅野も本当に必死だったし、ちゃんと饗応役としての仕事を全うしたかっただけなんだろうなと。

四つめの話は大石内蔵助の討ち入り前日の話。
討ち入り前にさんざん悩み倒して、生にも心を残している内蔵助がとても人間臭くて好きです。「義とは名詮自性、我を美しく、と書く、はたの見目に美しくあれ、というのは……見栄だ」からの一連の流れが格好いい。

五つ目の話は、大石内蔵助の顔を知っている故に吉良家に雇われた男の話。
ここで上杉家としては吉良への討ち入りについてどう見ているのかと出されて少々ぞっとする。

格好いい大石内蔵助

本によっては本当にダメ人間だったり人としてアウトだったりした様子に描かれることもある大石内蔵助が、この本ではとにかく格好良かった。
遠くを見据えた、未来が見えてこの前どうしたらいいのかわかっている人っていうかんじに見えてとても格好良かった。イケメン。いや顔はわからないけど。

気の短いというか、あまり性格が良くないというか、ちょっとキレやすい内匠頭が家臣を一人減給させたときの大石の、

「なにびとにも、癪に触れること、腹立つことは避けようがござりませぬ。お叱りになることにご遠慮は無用に御座います。ただし……」
 内蔵助は温顔をあらため、炯と内匠頭を仰ぎ見た。
「赤穂浅野家を、ご一人のものと思し召されるな。このお家、この城地は、先々君長直様、またそれがし祖父大石良欽の代より、君臣相結んで築き上げました。なれど、大名家とは万代不易のものにあらず、領国にいつ何時天災地変が襲うやも量られず、また公儀は諸大名に観察の目を絶やさず、わずかな瑕瑾を咎め、減封、国替え、重ければ改易、遠流。御当代将軍様の代の潰れ大名は、二十数家に及んでいます」

この件がすごく格好いい。内匠頭は確かに主君ではあるけれども、しかし何をしてもいいってわけじゃあないんだよね。それをたしなめるように、相手がただ悪いと非難するではなく説明する大石がすごく格好いいなと思いました。

その他の話でも、とにかくこの人格好いいな~、昼行灯って言われているしもし何もなければ確かに昼行灯だったろうけれども、この状況じゃあそうでもないんだよなーと思わされるシーンが多くて素敵でした。
筆頭家老がこの人以外だったら絶対無理だったろうなとでも思わせるような頭の切れ味の良さでした。

なんとなくだけど、三郎兵衛が赤穂浅野家に残り浪士となることに決めた理由って、浅野内匠頭のためとか御恩だとかじゃなく、大石内蔵助のためなんじゃないかなって思って読んでいました。

吉良も浅野も悪くない

表題作の「その日の吉良上野介」の内容が、個人的にとても好きです。
吉良が、あの事件は結局誰もわるくはないのだと言う。本によってはあれはああいうことで吉良が悪いだの、圧倒的に浅野が頭がおかしいだのにかたよるのもあるしそれもそれで好きだけれど、誰に対しても優しい、悪人のいないこの解釈も好きだなと思いました。

吉良とすればあれは時間がなかっただけ、浅野の勘違いを解消するために賄賂を受け取らなかった部分もあるのに、全部うまく言葉で言えない・通じないのはきっついわ。そしてそれを吉良が気付いてしまったのが。

誰も悪くない、悪いとすればただ運が悪かっただけなんだなと思うときっつい。

「わしは悪くない。天地神明に誓って悪意はなかった。浅野も……悪意はなかったと思う。すべては行き違いから始まった。十八年の時の長さと、わずか四日しか余裕のなかった時の短さ……それがすべてなのだ、その、時の長短が確執を産み、増幅され、遂には刃傷という破局に至ったのだ……」

本当にその通りだなと思う話。

 

この本から気になったので、他の池宮彰一郎忠臣蔵の話も読んでみたいと思いました。
とりあえずこれな

最後の忠臣蔵 (角川文庫)

最後の忠臣蔵 (角川文庫)

 

 

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